どうも、とがみんです。
安倍首相が、2020年には新憲法が施行される年にしたいという発言をしたこともあって、憲法の改正に関する意見がたくさん出ています。
この記事では、自民党が出した憲法改正草案に対して、問題点、論点になっている部分、気になった点についてまとめ、自民党の憲法改正草案に関してどのような懸念点があるのかについてまとめていきます。
自民党の憲法改正草案&日本国憲法改正案草案Q&Aについては以下を参考にしてください。
>日本国憲法改正草案|自由民主党
>日本国憲法改正案草案Q&A|自由民主党
憲法の成り立ちや歴史については、以下の記事でまとめています。
Contents
憲法第二章 戦争放棄について
以下は、日本国憲法の第二章と、自民党の憲法改正草案についてです。
日本国憲法
第二章 戦争放棄
第九条
第一項
日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。第二項
全項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
自民党改正案草案
第二章 安全保障
第九条の一(平和主義)
第一項
日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は国際紛争を解決する手段としては用いない。第二項
全項の規定は自衛権の発動を妨げるものではない。第九条の二(国防軍)
第一項
我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。第二項
国防軍は、前項の規定による任務を遂行する際は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。第三項
国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。第四項
前二項に定めるもののほか、国防軍の組織、統制及び機密の保持に関する事項は、法律で定める。第五項
国防軍に属する軍人その他の公務員がその職務の実施に伴う罪又は国防軍の機密に関する罪を犯した場合の裁判を行うため、法律の定めるところにより、国防軍に審判書所を置く。この場合においては、被告人が裁判所へ上訴する権利は保障されなければならない。第九条の三(領土等の保全等)
国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない。
「戦争の放棄」について
日本国憲法の第二章のタイトルでは「戦争放棄」であったものが、自民党草案では「安全保障」に変更されています。
そして、第一項によって禁止されているのは、「戦争」及び侵略目的による武力行使のみであり、自衛権の行使や国際機関による制裁措置は禁止されないものと自民党では考えられています。
日本国憲法の第九条の第二項の「全項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」といった、戦争に歯止めをかける項目が削除され、
自民党の草案では、「全項の規定は自衛権の発動を妨げるものではない」としています。
つまり、自衛権の発動のためなら、「自衛のため」ということであれば、「戦争」、「国際紛争のを解決するための手段としての武力による威嚇及び行使」は、憲法上可能になります。
「自衛隊」ではなく「国防軍」
憲法九条改正の背景として、憲法学者や政党等「自衛隊」が違憲だという意見があるなかで、自衛隊は災害救助含め、何かあった時に日本人の命を守る役割を果たしています。
自衛隊は違憲かもしれないが、何かあれば命を張って守ってくれというのはあまりにも無責任ではないか?ということで、憲法に「自衛隊」を明記することとが言われています。
しかし、自民党の憲法改正草案を見てみると、「自衛隊」ではなく、「国防軍」と明記されています。
「国防軍」という名称は、独立国家としてふさわしい名称にすべきということで多数決で決められたそうです。
「自衛隊」と「国防軍」の違いとは?この表記の違いによってどこまで何ができるようになるのでしょうか?
>憲法9条に第三項を追加しては…?安倍晋三自民党総裁メッセージ
個別的自衛権と集団的自衛権
個別的自衛権とは、自国に対して侵害を受けた場合に、武力を持ってその排除のために必要な行為を行うことであり、
集団的自衛権とは、自国だけでなく、仲間である同盟国が攻撃・侵害された場合にも、武力を持って一緒反撃することができるような権利です。
現状は、日本は集団的自衛権は認められているものの、憲法九条の影響で、それを行使できない状況にあります。
しかし、自民党の憲法改正草案では国防軍は、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動を行うことができるため、集団的自衛権の行使が憲法上認められているという解釈ができます。
国民と協力して「領土・領空・領海」の保全
自民党草案では、第三条に、「国は、主権と独立を守るため、国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない。」という項目が付け加えられています。
この項目をわざわざ追加した意図はどういったところにあるのでしょうか?
自民党内の議論では、「国民の国を守る義務について規定すべきではないか」といった意見があったそうです。
しかし、そうすると徴兵制について問われることとなるため、「国が国民と協力して」領土等を守るというふわっとした抽象的な表現にしたそうです。
軍事的な行動を規定しているわけではないというものの、戦争が起こったとして、他国の軍隊が領土を侵略してきた際には、守るためには国民は協力しなければならない状況が生まれてしまうのではないでしょうか。
憲法の範囲内なら法律を定めることができるので、国民が国を守る義務が法律で制定される可能性はなきにしもあらずですね。
これらの戦争放棄、安全保障に関する憲法の変更について、みなさんはどのように考えるでしょうか?
憲法第三章 国民の権利および義務について
表現の自由が制限
憲法第二十一条の「表現の自由」に関して、自民党草案では、以下のように変更されています。
日本国憲法
第二十一条
第一項
集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
第二項
検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
自民党草案
第二十一条の一
第一項
集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、保障する。
第二項
全項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社することは、認められない。
第三項
検閲は、してはならない。通信の秘密は、侵してはならない。
自民党草案では、「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社することは、認められない。」としています。
1995年の地下鉄サリン事件等、オウム真理教の事件に対して、破壊防止法が適用できなかったことを背景に、公益や公の秩序を害する活動やそれを目的とした結社そのものを認めないということにしたそうです。
政府にとっての公益(社会全般の利益)と国民にとっての公益が異なった場合、政府にとっての公益に対する抗議のための結社は取り締まられたりするのではないでしょうか?
戦前のように、「国を守るためには戦争だ」という政府の方針に対して、「戦争は反対だ」という国民の意見があった際、その他デモ活動はできなくなってしまうかもしれません。
法律でオウム真理教の件も法律で取り締まれるようにするのではなく、憲法の「表現の自由」で規制する必要はあるのでしょうか?
本来国のルールを決める権力者を縛るはずの憲法で、どうして国民を縛る項目を付け足すのでしょうか?
みなさんはどのように考えるでしょうか?
例外として拷問が可能に?!
拷問に関して、以下のように、「絶対に禁止ずる」から、「絶対に」が省かれ、「禁止する」に変更されています。
日本国憲法
第三十六条
公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。
自民党草案
第三十六条
公務員による拷問及び残虐な刑罰は、禁止する。
何が何でも拷問がだめであるなら、変更を加える必要性はないのではないでしょうか。
「絶対に」という文言がないことによって、「禁止ではあるが、例外は認められるのでは」という解釈が生まれ、拷問できる例外について法律で定めることができるようになります。
この変更にはどのような意図があるのでしょうか?
新設(自民党草案第9章)緊急事態条項について
自民党の憲法改正案草案にて、以下のような緊急事態に関する文章が追加されています。
自民党草案
第九十八条(緊急事態の宣言)
第一項
内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。第二項
緊急事態の宣言は、法律の定めるところにより、事前又は事後に国会の承認を得なければならない。第三項
内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があったとき、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したとき、又は事態の推移により当該宣言を継続する必要がないと認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、当該宣言を速やかに解除しなければならない。また、百日を超えて緊急事態の宣言を継続しようとするときは、百日を超えるごとに、事前に国会の承認を得なければならない。第四項
第二項及び前項後段の国会の承認については、第六十条第二項の規定を隼用する。この場合において、同項中「三十日以内」とあるのは、「五日以内」と読み替えるものとする。
第九十九条(緊急事態の宣言の効果)
第一項
緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な支持をすることができる。第二項
前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければならない。第三項
緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の支持に従わなければならない。この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他基本的人権に関する規定は最大限尊重されなければならない。第四項
緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議員の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。
自民等は、東日本大震災における政府の対応が迅速でなかったことを反省に、緊急事態に対応するための仕組みを明記する必要があるということで、緊急事態に関する文章が追加されています。
この改正案に対して、独裁国家になりうる危険性についての意見があります。
独裁国家への懸念
この改正案には、日本が独裁国家んなりうる危険性を孕んでいます。
緊急事態の宣言があった場合に、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行うことができるようになります。
これにより、立法府である国会は形骸化し、権限の全てを内閣が握る独裁状態になってしまいます。
また、緊急事態の定義も曖昧で、
「外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において」
と、「等」がついていることによって、緊急事態の解釈を広げることができるようになっています。
過去の歴史の中で、このような緊急事態条項に対して悪用されたような例があります。
第一次世界対戦後、1919年に制定されたドイツのワイマール憲法の48条では、このような緊急事態に対する条項が定められており、
これによりヒトラー率いるナチス独裁へと移行していきました。
>「ナチスの手口を学べ」と語った麻生副総理。ナチス独裁への道を開いたのが「緊急事態条項」だった
また、2016年の7月、トルコのエルドリアン大統領は、クーデター事件を受けて非常事態宣言を発令し、その後、3回も非常事態宣言が延長されています。
そして、その間に以下のようなことがおこなわれました。
- 兵士や民間人1万人以上を起訴なしで身柄を拘束。
- 公務員、裁判官、警察、研究者や教員ら6万人以上を解雇や停職。
- 政権に批判的な報道機関を政令で閉鎖。
すなわち、政権に批判・対抗する人、疑わしい人を片っ端から取り締まっていくようなことが起こっています。
緊急事態に対する措置に関して、日本では戦後、1946年の改正委員会にて議論されており、
「民主政治を徹底させ、国民の権利を十分に擁護するためには、上記のような政府の一存で行う措置を極力防止しなければならない」
ということで、このような条項は作られてきませんでした。
しかし、今日、そのような条文が追加されようとしており、また、緊急事態の定義について「等」といった曖昧な言葉が残っており、解釈を広げることができます。
このような、政府の自由判断を残しておくことによって、どのような精緻な憲法でも破壊されるといわれており、日本もドイツやトルコのようになってしまう可能性がないとはいえません。
このような、独裁国家になる可能性を含んだ内容を憲法に明記することはどうなのでしょうか?
第九章(草案では十章) 憲法の改正について
憲法の改正に関して、自民党草案では以下のように変更されています。
日本国憲法
第九十六条
この憲法の改正は、各議員の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を得なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行われる投票のおいて、その過半数の賛成を必要とする。
自民党草案
第百条
この憲法の改正は、衆議院又は参議院の発議により、両議員のそれぞれの総議員の過半数の賛成で国会が議決し、国民に提案してその承認を得なければならない。この承認には、法律の定めるところにより行われる国民の投票において有効投票の過半数の賛成を必要とする。
憲法改正に当たって、現状は衆議院、参議院の両議員の三分の二以上の賛成があって、国民に対して憲法改正を問うことができ、国民投票で過半数以上の賛成があって、憲法が改正されます。
自民党の改正案では、衆議院参議院の賛成が2分の1以上に変更されています。
憲法改正にあたって、国民投票にて国民の意思を直接問うため、その発議に関して手続きを厳格にすると、返って国民の意思を反映しないのではないかといったことが背景にあり、緩和しています。
一方で、簡単に憲法を変えることができるようにしてしまうと、時の権力者の都合で簡単に憲法が書き換えられ、国民の人権を脅かしうるといった意見もあります。
2019年参議院議員選挙後、憲法改正発議するための両議員3分の2の164議席には、4議員足りないとされており、その結果憲法改正にかんする発議が難しくなっています。
憲法改正の発議を過半数以上にすると、憲法改正の発議は簡単になってしまい、その改正かどうかは国民の意思がより重要になってきます。
>【政界徒然草】「改憲勢力」の違和感 2/3割れで憲法改正に近付いたのか
しかし、現状日本国民の半数も選挙に行かず、政治に対する意識が低く、マスメディアが偏向報道をしかねない中で国民投票をすると、人権を脅かすような悪い方向に向かっていくかもしれません。
まとめ
安倍首相が2020年は新憲法が施行される年にしたいということで、今後憲法改正に関する議論がより活発に行われていくと思います。
憲法改正に関する自民党の草案には、表現の自由の制限や、緊急事態条項といった日本が今後独裁国家になってしまいうる要素が含まれています。
憲法改正に関しては慎重に考えていく必要がありそうですね(笑)
参考文献
>日本国憲法改正草案|自由民主党
>日本国憲法改正案草案Q&A|自由民主党